☆☆☆ メリメリ・ファイ ・・・過ちを犯して初めて知る、知らなかった別の顔・側面への驚き。


 *** プロローグ

 神に清らかな祈りを捧げる乙女たち。

 この辺りには、いくつもの塔が立っていた。
 王城の周りに町が集まり、町の外側には小さな集落・・・村々が広がり、村より先は森となっていた。その森には清らかな湖と古く高い白い塔がいくつも立ち、日々祈りを捧げる巫女たちが暮らしていた。

 いつの頃からだろうか・・・それはもう遠い昔のこと。
 十をいくつか過ぎた年頃の少女たちが、一年間その塔に篭もり、無垢で清らかなる祈りを捧げることが行われるようになった。
 隔離された人気のない寂しい森の塔。
 遊びたい盛りの幼い少女たち。
 美しく純粋な少女の祈りこそ神に喜ばれるとされ、都中の少女たちへの視線を変えさせた。から選ばれることになった。
 身分も何も問わない少女たちへの選別。
 ”祈り乙女”に選ばれることは名誉なこととされ、国から褒美が出されるようになった。
 だが、年若い娘との隔離を嫌がる親も少なくなかった。
 毎年同じ少女を選ぶことは、生贄を連想させることから禁止とされ、少女たちは少しばかりの安堵を味わった。
 聖なる神に、清らかな祈りを。
 乙女は祈る為だけに聖堂へ連れて行かれ、俗世との関わりを絶った生活を送る。
 あまりに静かな祈りの生活は、少女の考えすら研ぎ澄まさせた。
 選ばれた少女たちの中には、そのまま神殿の巫女としての道を進む者もあった。
 祈り乙女としての奉仕は成人前までの少女とされ、今後も心変わりがないと宣誓することにより、本巫女への道が開く。
 神の為だけに祈る乙女は生涯を捧げるため、未婚でならなければならない。
 そのため本巫女として生きる者は年々減り、その実態は口伝でのみ伝えられる。

 それは、もう誰も思い出せないぐらい遥か昔からの決まり事。
 今では生活のひとつとなっていた。



 + + +


 少女には、両親と弟がいた。
 少女は清楚で凛とした美しさを持っていた。
 清水のような澄んだ理知的な瞳。
 意志の強そうな口元。
 年のわりに落ち着いた雰囲気で、本巫女の目に留まった。
 今日は年に一度の祈り乙女の選定の日。
 年老いた本巫女たちは、厳しい眼差しで年若い少女たちを見つめる。
 一人、また一人と心の中で選定していく。
 本巫女が決めるのは、ごく一部の少女たちだ。
 少女本人、または親類が拒否した場合はこの選定から免除される。
 ただ、”祈り乙女に選ばれ奉仕した”ことは、一種のステータスとなり、羨望の眼差しを浴びることであった。
 また、選定を拒否することは可能だが、それはよほどの理由がない限り、不敬だと周りから無言の非難を受けた。
 最近では祈り乙女自体を拒否する者もいるが、根強く残った慣習は容易く消えない。
 または、国からの補助目当てにやってくる娘もいる。
 本巫女が選定するのは、無垢で清らかな祈りを捧げることができそうな、そんな純粋な娘だけ。
 選定で足りない場合は、希望する者も祈り乙女として奉仕する。
 拒否権のある、緊張感のない選定。
 静謐なる祈り乙女の制度は、徐々に廃れていく気配をはらんでいた。
 その少女は、意志の強い思い詰めた目をして本巫女の視線を受け止めた。



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